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ファシリテーション

ファシリテートの2つの原則

ファシリテーターとは、文字通り、グループにおける討議をファシリテート(促進)する役割を担う人のことです。
堀・加藤[1]は、往々にして生じてしまうグループ討議の失敗の典型例として、

  1. 意見が出ない
  2. 意見がかみ合わない
  3. 意見がまとまらない

以上三点を挙げています。こうした問題を解決するために、ファシリテーターは、グループメンバーの間のコミュニケーションを支援したり、議論を可視化したりします。そのテクニックを解説するための多くの書籍が出版されています。

たしかに、フューチャー・デザインを使ったグループ討議も、ファシリテーターを置いて進めることがあります。しかし、本研究所がサポートするフューチャー・デザインのワークショップでは、一般的にはあまり採用されない、次の二つの原則を大事にしています。

 

原則1:ファシリテーターは極力、存在感を発揮しない

このような原則を大事にする理由は二つあります。第一に、「当事者」原則を掲げる本研究所は、「熟練したファシリテーターがいなければ、フューチャー・デザインが実施できない」という状況は避けたいと考えています。
よって、意見が出ないという問題は、ファシリテーターの頑張りによって解消するのではなく、「パストデザイン法」や「紙芝居」などの様々なツールを用いながら仮想将来人になりきるための十分な準備をすることによって、解消したいと考えています。
また、一般的なワークショップと同様、私たちも参加者たちの討議の内容を模造紙にまとめる形式を採用することがありますが、その場合、熟達した議論可視化の技能は要求せず、出てきたキーワードを時系列的に書き並べるだけで十分であるというスタンスを取っています。

第二に、確かに、堀・加藤[1]が指摘する上記の1.2.3.のような問題を回避するために、ファシリテーターは必要です。しかし、往々にして、ファシリテーターが議論の主役になってしまったり、初対面のグループメンバーたちが、ファシリテーターを介するという形でしかコミュニケーションをとれなくなってしまったりするという弊害が生まれることがあります。

Nakagawa [2] が観察したように、フューチャー・デザインにおいて創造的なビジョンが生まれるためには、メンバーの誰か一人が、ビジョンの種となるアイデアをその場でひらめいたり、普段は心の奥底にしまっていた種を表出したりする必要があります。そして、他のメンバーが、その種に共感してひらめきを連鎖させ、ビジョンを具体化させていくことが必要です。
そのために、メンバー同士がファシリテーターを介するのではなく、直接的にコミュニケーションをとることを、本研究所は最優先事項としています。

以上の二つの理由から、本研究所がサポートするフューチャー・デザインのワークショップでは、ファシリテーターには熟練した技能は要求しません。
ファシリテーターが果たすべき最大の役割は「時制の管理」だと考えています。
仮想将来人になりきって自分の住む未来の姿を描くことは、容易ではありません。ともすると、現代人としての自分が意識の前面に出てきてしまいます。
討議参加者の皆さんが将来人になりきって議論に没頭するためには、通常なら未来形を使わなければならない文脈で現在形を、また通常なら現在形を使わなければならない文脈で過去形を使って会話することが重要です。
この観点から、参加者たちの言葉遣いを管理することが、ファシリテーターの主要な役割となります。

 

原則2:付箋は使わない

一般的に、多くのグループワークで、付箋が使用されています。
グループメンバーが個別に付箋にアイデアを記入した上で、記入された付箋をファシリテーターがホワイトボード等に貼り付けて分類していく、という手順が踏まれることが多いように思います。
しかし、本研究所が実施するグループワークでは、付箋は使用しません。
なぜなら、このような手続きを踏むと、もともとメンバーの人たちが持っていたアイデアが表出され、集約されることにはなりますが、上で述べたような「メンバー間のアイデアのひらめきの連鎖」が生じにくくなり、その討議の場があったからこその将来ビジョンにたどり着くのが著しく困難になるからです。

 

(文責:中川善典、西條辰義)

 

参考文献:

[1] 堀公俊・加藤彰『ファシリテーション・グラフィック』日本経済新聞社.
[2] Nakagawa, Y. (2020). Taking a Future Generation’s Perspective as a Facilitator of Insight Problem-Solving: Sustainable Water Supply Management. Sustainability 2020, 12(3), 1000.


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