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社会科学実験のご紹介

室内における社会科学実験

本研究所がフューチャー・デザインの実践をサポートさせていただく際、様々な独自の手法を導入することを提案させて頂いております。
それらの一部は、室内における社会科学実験において、その効果を検証しています。
室内実験と、現場における実践とを、車の両輪として同時並行的に進めながらフューチャー・デザインの実践をしている研究組織は、私たちが知る限り、国内外において本研究所のみです。これが、本研究所の最大の強みとなっています。

「実践紹介」のページにある通り、フューチャー・デザインのワークショップは様々な要素から構成されています。
仮想将来人になるためのトレーニングの部においても、紙芝居やレクチャービデオなど複数の要素を組み合わせています。また、仮想将来人として将来社会を描く部においても、様々な工夫をしながら、参加者の皆さんが創造性を発揮できるようにしています。

残念ながら、こうした実践をいくら場当たり的に積み重ねていっても、効果的・効率的なワークショップの進め方についてのデザインを行うことはできません。
なぜながら、ひとつの実践は様々な要素をパッケージ化したものであり、個々の要素がどのような効果をもたらしているかを検証することができないからです。
そこで、本研究所では、ワークショップに組みこむべき個々の要素(もしくはその組み合わせ)の効果を科学的に検証するための室内実験を実施しています。このページでは、そうした実験をいくつか紹介します。

 

(文責 中川善典)

(1)仮想将来人を経験すると、自発的に我慢するようになるか?

Shahirierら[1]が行ったこの実験は、将来人になりきったと想像をする経験が、将来人への共感を高めることを、定量的に実証しました。
Shahirierらは、フューチャー・デザインの出発点となった上條ら[2]の開発した代間持続可能性ジレンマゲームを用いて、これを実証しました。(上條ら[2]の実験の意義については、別途記事をご用意する予定です。)


 具体的には、バングラデシュにおいて、Shahirierらは396人の一般社会人を集めた実験を行いました。
世代間持続可能性ジレンマゲームを説明しましょう.参加者たちは3人が1グループになり、提示された二つの選択肢の中から、グループとしての謝金の取り分を決定します。どのようにそれを決定するかは、グループに委ねられました。
ただし、もし高いほうの金額を受け取ってしまうと、自分たち(≒現世代)の次に来る3人のグループ(≒次世代)に提示される二つの選択肢の金額がどちらも一定額、減らされてしまいます。通常、次世代の謝金の取り分には関心がないので、グループは高いほうの金額を受け取るケースが大半です。


 ところが、Shahirierらは、グループが意思決定する前に、次世代の立場に立ち、現世代がどちらの選択肢をとって欲しかったかを議論してもらいました。
その上で、現世代として、どちらの選択肢をとるかをグループに決めてもらいました。もしもグループの決定が先ほどの次世代の立場からの決定と異なったときは、グループの3人が無記名投票をして、多数決によりグループの最終的な決定をしました。すると、大半のケースにおいて、次世代に配慮した選択肢が選ばれることが分かりました。


 以上の結果より、人は仮想的に次世代の立場に立つことを想像した上で、現世代として意思決定をすると、想像した経験の記憶があることによって、次世代に配慮するべく、現世代としての自分の利益を享受することを我慢するという内発的な動機が、強制力のない中で自然に生まれることが、示唆されました。また、そのような変化によって、多数決による集団的意思決定の結果が逆転する場合があることも示唆されました。


 無論、そのような逆転現象が常に成り立つわけではなく、この実験成果が直ちに社会に還元されるわけではありません。一部の人が将来人の視点を獲得し意見を変えたとしても、彼らの意見が社会の中で支配的になっていくプロセスを実現するための社会の仕組みのあり方は、別途考えねばならず、実際、本研究所ではいくつかの自治体でその検討に着手しています。
それでも、この実験成果は、本研究所が行う実践の、最も重要な学術的根拠のひとつとなっています。


参考文献:

[1] Shibly Shahrier & Koji Kotani & Tatsuyoshi Saijo, 2017. "Intergenerational sustainability dilemma and a potential solution: Future ahead and back mechanism," Working Papers SDES-2017-9, Kochi University of Technology, School of Economics and Management, revised Aug 2017.

[2] Kamijo, Y., Komiya, A., Mifune, N., and Saijo, T. (2017). Negotiating with the future: Incorporating imaginary future generations into negotiations. Sustainability Science, 12 :409–420. 
 


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