討議結果からビジョンを
抽出する手法
討論を可視化する
フューチャー・デザインワークショップを実施し、参加者たちが楽しんで討議を進め、面白いアイデアをたくさん出してくれたとして、その先にワークショップの主催者は一体何をやればよいのでしょうか。
ここを明確に理解しておかなければ、ワークショップが「やりっぱなし」になり、成果が有効に活用されることは決してありません。
ところが、討議結果から意味ある知見を引き出すことは、簡単ではありません。
たとえば、あなたが2時間のグループ討議に参加し、その内容をグループ外の人たちに的確に要約する立場になったことを想像してみてください。
討議は、話題が様々な方向に飛び火しつつ、時には戻ったりして、複雑に発展していくことが多いでしょう。
しかも会話音声をすべて書き起こしすれば、A4用紙30ページ分くらいの長さになるでしょう。
これをどういった観点で要約すればよいのかは、非常に難しい問題です。
討議で出てきた具体的な施策を単に拾い上げ、リストにしたところで、それは活用できるものにはならないでしょう。
討議に参加していなかった人が、そのような具体的な施策だけを見せられたとしても、なぜそれが必要なのかが分からず、まったく説得力を持たないはずです。
それよりもむしろ、一つ一つの具体的な施策のアイデアが、班の中で、どのような文脈によって、どのような基本哲学の下で生まれたものかを特定することに、より一般的な価値があります。
私たちは、1つの班による討議のプロセスを図示化し、それに基づいて、その班が一体どのような将来ビジョンを描いたのかを抽出する手法を開発しました[1]。
この方法は、討議参加者によるひとつひとつの発言が、それより前のどの発言を受けたものであり、またそれより後のどの発言に引き継がれていったのかを、可視化するものです。
これにより、討議がどのように流れていったのか、流れと流れとがどのように交わったり、交わらずに別の方向に展開していたのか、等が可視化されます。
下の図は、そのようにして議論の流れを可視化した例です。
その解釈結果を踏まえると、「幅広い政策分野において、判断基準として活用できるような一般性のある基本哲学」を抽出することが可能になります。
これは、その班がたどり着いた将来ビジョンであると言い換えることができると思われます。
こうした丁寧な手続きを踏まなければ、討議に参加した本人でさえ、同様のアウトプットを得ることは難しいでしょう。
この手法を用いることのメリットの1つは、ワークショップで何が行われたのかの全体像を把握することが可能なるという点です。
1回のワークショップでは、4〜5人で構成される班が複数(4〜6個くらい)あることが多いと思います。
そのすべての班の討議内容を1人の担当者がすべて把握することは、重要であるにもかかわらず、通常は、ほぼ不可能と思われます。本手法は、そのような問題意識から、開発されました。
この記事の中でお見せした実例は、討議音声を録音し、それをすべて書き起こした結果に基づいて作成しました。
自治体等が実際にこのような図を作成しようとすると、書き起こしには非常に大きなお金と時間とがかかってしまい、現実的ではありません。
本研究所では、現在、リアルタイムに作成できる程度の簡易な議事要旨から、こうした図を作成する可能性を検討しています。
参考文献:
[1] Nakagawa, Y. (2020). Taking a Future Generation’s Perspective as a Facilitator of Insight Problem-Solving: Sustainable Water Supply Management. Sustainability 2020, 12(3), 1000.